【本当は怖い】香水(瑛人)
彼女は一言で言えば「ドルガバの女」だ。
全身からドルチェ&ガッバーナの香水の匂いがするだけではなく、服装から帽子からアクセサリー、バッグまで全てドルガバである。
香水はシュでいいものをシュシュシュシュシュシュシュシュシュと大量につけるもんだから非常に臭い。
余りに臭くて犬に吠えられたこともある。
マリリンモンローがシャネルの5番を付けて寝たように彼女が寝る時もドルガバを着ている。
海へ行っても水着にはならずドルガバを着ている。
たくさん写真を撮ったが全てドルガバだった。
そんな彼女と別れてから3年目、夜中にいきなりLINEが来て会うことになった。
通りの向こうがよく見えるカフェの入り口のパティオに席を取って待っていると数メートル先からドルガバのキツイ香水の匂いがしてきた。
「彼女だ」
直感的にそう思うと、ボヤと間違われて消防車が到着しないことを祈った。
スモホの画面にLINEが来ていた。
「着いたよ」
3年前と同じドルガバの服にバッグにアクセサリーで彼女は現れた。
さすがに同じ服装はどうなのかと思うが、そういえば前に聞いたことがあるような気がした。
いわく、バックに合わせる服を選ぼうとすると限られてくるのだと、決して服を一着しか持っていないわけではないとくどくどと説明されたことを思い出した。
ただ、実際に彼女の部屋の”本当の”クローゼットを覗いて確かめたわけではない。
僕の見たクローゼットには服とは別のものが入っていて、それ以上詮索する気にはなれなかったからだ。
彼女が横に座った瞬間、まるで夢でも見てるような気分になって意識が遠のいた。
気がつくと僕はベッドの上にいて鼻にツーンと付く匂いで起こされた。
彼女の香水が睡眠薬の役目をして僕を眠らせ、汗と混じって化学変化を起こしたドルガバが媚薬となって僕を起こしたのだ。
3年前と同じように彼女はクローゼットから道具を取り出し、僕にねだってきた。
「もっと刺激がほしい」
彼女はありきたりのセックスではもう燃えない体になっていた。
僕は彼女を麻縄で縛り、蝋を垂らして、なめし革で叩いた。
痣や擦り傷が残り、軽く火傷もした。
彼女は嗚咽を上げ、快感に打ち震えた。
その時、僕は最近別れたばかりの別の彼女のことを思い出していた。
僕は奔放なドルガバの女が忘れらず、代わりを求めるように、別の女と将来を誓い合い結婚する予定だった。
祝言をしたその日の夜、彼女と初めての夜に僕は”刺激”を要求した。
彼女の肌には傷が残り、泣かせてしまったが、僕にはあの時のような快感はなく、何も感じ取れないクズになってしまっていた。
その日以来彼女とは会っていない。
夜中にいきなりさ いつ空いてるのってLINE
君とはもう3年くらい会ってないのにどうしたの?
あの頃 僕達はさ なんでもできる気がしてた
2人で海に行っては たくさん写真撮ったね
でも見てよ今の僕を
クズになった僕を
人を傷つけてまた泣かせても
何も感じ取れなくてさ
別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す
君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ
ドルガバの彼女にその話をして後悔を口にした時、ふと彼女の肌を見ると、僕が3年前につけた筈の傷が消えていた。
あの時は一生体に残る傷を付けてしまったと思っていたが、何もなくなっていた。
水着が着れなかったのも傷があったからだ。
わけをきくと、全身整形したらしい。
体の傷のついでに顔も少しいじったそうだ。
「可愛くなったね」
僕はひきつりながらそう言った。
それを聞くと彼女はタバコに火をつけた。
あ、あつ、熱いっっっ!!
攻守交代だ。
彼女はいつのまにかSもこなせるようになっていたのだ。
悲しくないよ、君が変わっただけだ。
僕にはMは無理だ。
でも、でも、ああっっ!
全身が快感に打ち震えた。
彼女はニヤリと笑って僕を責めた。
「この嘘吐きの豚め!本当は気持ちがいいんだろう?!」
「僕は豚です。軽蔑してください!」
ドルチェ&ガッバーナのハイヒールのかかとが僕の肌に食い込んだ。
どうやら僕は新たな境地に達したようだ。
同じことを繰り返していたら、また僕は振られていただろう。
今更君に会ってさ 僕は何を言ったらいい?
「可愛くなったね」口先でしか言えないよ
どうしたの いきなりさ タバコなんかくわえだして
悲しくないよ悲しくないよ 君が変わっただけだから
でも見てよ今の僕を
空っぽの僕を
人に嘘ついて軽蔑されて
涙ひとつもでなくてさ
別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す
君のドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ
別に君をまた好きになることなんてありえないけど
君のドルチェ&ガッバーナの香水が思い出させる
何もなくても 楽しかった頃に
戻りたいとかは思わないけど
君の目を見ると思う
別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す
君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ
別に君をまた好きになるくらい君は素敵な人だよ
でもまた同じことの繰り返しって
僕がフラれるんだ
The comments to this entry are closed.
Comments